脊髄及び脊柱の後遺障害
1 脊髄損傷による麻痺
脊髄損傷は、事故などによる外力が脊髄に加わって、脊髄が損傷された状態です。
外傷により脊髄が損傷された場合、対麻痺や四肢麻痺に加えて、広範囲にわたる感覚障害、胸腹部臓器の障害、脊柱の変形や運動障害等の複雑な症状が認められることが少なくないのですが、後遺障害等級は、基本的に麻痺の範囲と程度により認定されることとなります。麻痺の範囲及びその程度については、身体的所見及びMRI、CT等によって裏付けられることが必要です。
ただし、胸腹部臓器の障害や脊柱の障害の後遺障害等級が、麻痺により判断される等級よりも重い場合には、麻痺以外の等級をも併せた総合評価により、等級が認定されることとなります。
四肢麻痺とは、両側の四肢の麻痺、片麻痺とは一側の上下肢の麻痺、対麻痺とは両上肢または両下肢の麻痺、単麻痺とは上肢または下肢の一肢のみの麻痺を意味します。
脊髄の損傷による麻痺については、四肢麻痺、対麻痺(下半身麻痺)となることが多いとされていて、基本的には、頸髄損傷では四肢麻痺、胸腰髄損傷では対麻痺となります。
等 級 |
障害の程度 |
1級の3 |
せき髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの ①高度の四肢麻痺 ②高度の対麻痺 ③中等度の四肢麻痺で要常時介護状態 ④中等度の対麻痺で要常時介護状態 |
2級の2の2 |
せき髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの ①中等度の四肢麻痺 ②軽度の四肢麻痺で要随時介護状態 ③中等度の対麻痺で要随時介護状態 |
3級の3 |
生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、せき髄症状のために労務に服することができないもの ①軽度の四肢麻痺 ②中等度の対麻痺 |
5級の1の2 |
せき髄症状のため、きわめて軽易な労務のほかに服することができないもの ①軽度の対麻痺 ②一下肢の高度の単麻痺 |
7級の3 |
せき髄症状のため、軽易な労務以外には服することができないもの ・一下肢の中等度の単麻痺 |
9級の7の2 |
通常の労務に服することはできるが、せき髄症状のため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの ・一下肢の軽度の単麻痺 |
12級の12 |
通常の労務に服することはできるが、脊髄症状のため、多少の障害を残すもの ①運動性、支持性、巧緻性、速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺 ②運動障害は認められないものの、広範囲にわたる感覚障害が認められるもの |
脳損傷による麻痺と、脊髄損傷による麻痺とでは、麻痺の範囲と程度が同じであっても、等級が異なるものがあるので注意が必要です。脊髄損傷による麻痺の方が重い場合がありますので、麻痺の原因を正確に特定する必要があります(例えば、中等度の四肢麻痺は、脳損傷によるものは3級ですが、脊髄損傷によるものは2級とされています。)。
麻痺の程度 |
内容 |
高度 |
麻痺が高度とは、障害のある上肢又は下肢の運動性・支持性がほとんど失われ、障害のある上肢又は下肢の基本動作(下肢においては歩行や立位、上肢においては物を持ち上げて移動させること)ができないものをいう。 (具体例) ①完全強直又はこれに近い状態にあるもの ②上肢においては、3大関節及び5つの手指のいずれの関節も自動運動によっては可動させることができないもの又はこれに近い状態にあるもの ③下肢においては、3大関節のいずれも自動運動によっては可動させることができないもの又はこれに近い状態にあるもの ④上肢においては、随意運動の顕著な障害により、障害を残した一上肢では物を持ち上げて移動させることができないもの ⑤下肢においては、随意運動の顕著な障害により一下肢の支持性及び随意的な運動性をほとんど失ったもの |
中等度 |
麻痺が中等度とは、障害のある上肢又は下肢の運動性・支持性が相当程度失われ、障害のある上肢又は下肢の基本動作にかなりの制限があるものをいう。 (具体例) ①上肢においては、障害を残した一上肢では仕事に必要な軽量の物(概ね500グラム)を持ち上げることができないもの又は障害を残した一上肢では文字を書くことができないもの ②下肢においては、障害を残した一下肢を有するため杖若しくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの又は障害を残した両下肢を有するため杖若しくは硬性装具なしには歩行が困難であること |
軽度 |
麻痺が軽度とは、障害のある上肢又は下肢の運動性・支持性が多少失われており、障害のある上肢又は下肢の基本動作を行う際の巧緻性及び速度が相当程度損なわれているものをいう。 (具体例) ①上肢においては、障害を残した一上肢では文字を書くことに困難を伴うもの ②下肢においては、日常生活は概ね独歩であるが、障害を残した一下肢を有するため不安定で転倒しやすく、速度も遅いもの又は障害を残した両下肢を有するため杖若しくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの |
2 中心性脊髄損傷
脊髄損傷は、脊髄の横断面全体にわたり神経回路が断絶された完全損傷と、神経回路の一部が保たれた不完全損傷に分類されます。
中心性脊髄損傷とは、脊髄の不完全損傷の一類型であり、下肢よりも上肢に強い運動障害、感覚障害をきたす症候群とされています。解剖学的には、下肢への神経繊維は脊髄の外側に、上肢への神経繊維は脊髄の中心よりに存在しているため、中心部に損傷が強ければ、上肢の症状が重くなります。
中心性脊髄損傷は、脱臼や骨折を伴わない非骨傷性脊髄損傷の多くを占めるとされています。
脊椎の脱臼や骨折を伴わない場合には、骨傷の画像所見が存在しないため、MRI画像等で脊髄損傷の所見が明らかでないと、脊髄損傷の存在の有無自体、強く争われることが多いです。
中心性脊髄損傷の場合、典型的な脊髄損傷の症状・所見とズレが生じることが少なくなく、等級認定自体、問題となることが多いです。裁判になった場合においても、強く争われる恐れがあり、主治医の診断書・意見書に加えて、事故の衝撃の大きさや事故後の症状の推移等を丁寧に主張・立証していく必要があります。
3 頸椎・胸腰椎の圧迫骨折等による障害
脊柱は、頸・胸・腰と異なる部位に区別することができますが、障害等級の認定は、脊柱の持つ支持機能に着目しているため、頭部の支持機能を担っている頸椎と、体幹の支持機能を担っている胸腰椎に分類され、頸椎と胸腰椎をそれぞれ異なる部位として、後遺障害等級が認定されることとなります。
①変形障害
脊柱の後彎(後ろに飛び出るように曲がっている状態)ないし側彎(横に飛び出るように曲がっている状態)の程度等により後遺障害等級が認定されます。
等 級 |
障害の程度 |
6級の4 |
せき柱に著しい変形を残すもの (エックス線写真等によりせき椎圧迫骨折等を確認できる場合で、次のいずれかに該当するもの ①2個以上の椎体の前方椎体高が著しく減少し、後彎が生じているもの ②1個以上の椎体の前方椎体高が減少し、後彎が生じるとともに、コブ法による側彎度が50度以上となっているもの) |
8級に準ずる |
せき柱に中程度の変形を残すもの (エックス線写真等によりせき椎圧迫骨折等を確認できる場合で、次のいずれかに該当するもの ①1個以上の椎体の前方椎体高が減少し、後彎が生じているもの ②コブ法による側彎度が50度以上となっているもの ③環椎又は軸椎の変形・固定により一定角度の回旋位、屈曲位、伸展位、側屈位となっているもの) |
11級の5 |
せき柱に変形を残すもの (次のいずれかに該当するもの ①せき椎圧迫骨折等がエックス線写真等により確認できるもの ②せき椎固定術が行われたもの ③3個以上のせき椎について、椎弓切除術等の椎弓形成術を受けたもの) |
②運動障害
運動障害は、頸部ないし胸腰部がほぼ完全に動かなくなるか、可動域が通常の2分の1以下に制限された場合に後遺障害として認定されます。
ただし、脊柱に運動障害を残すとして、後遺障害認定されるには、脊椎圧迫骨折や脊椎固定術、項背腰部の軟部組織の明らかな器質的変化等の存在が必要です。
したがいまして、いわゆるむち打ち症による疼痛のために頸部の運動制限が生じたとしても、脊柱の運動障害として後遺障害認定されることはありません(別途、局部の神経症状として認定される可能性があるに留まります。)。
等 級 |
障害の程度 |
6級の4 |
せき柱に著しい運動障害を残すもの (頸部及び胸腰部が、次のいずれかにより強直したもの ①頸椎及び胸腰椎のそれぞれにせき椎圧迫骨折等が存しており、そのことがエックス線写真等により確認できるもの ②頸椎及び胸腰椎のそれぞれに脊椎固定術が行われたもの ③項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの) |
8級の2 |
せき柱に運動障害を残すもの (1 頸部又は胸腰部の可動域が、次のいずれかにより参考可動域角度の2分の1以下に制限されたもの ①頸椎及び胸腰椎のそれぞれにせき椎圧迫骨折等が存しており、そのことがエックス線写真等により確認できるもの ②頸椎及び胸腰椎のそれぞれにせき椎固定術が行われたもの ③項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの 2 頭蓋・上位頸椎間に著しい異常可動性が生じたもの) |
③荷重機能障害
荷重機能障害は、脊椎圧迫骨折・脱臼、脊柱を支える筋肉の麻痺又は項背腰部軟部組織の明らかな器質的変化が存在して、それらがエックス線写真等により確認できる場合に認定されます。
等 級 |
障害の程度 |
6級に準ずる |
その原因が明らかに認められる場合であって、そのために頸部及び腰部の両方の保持に困難があり、常に硬性補装具を必要とするもの |
8級に準ずる |
その原因が明らかに認められる場合であって、そのために頸部又は腰部のいずれかの保持に困難があり、常に硬性補装具を必要とするもの |