切れ・こすれによる事故
作業中に、機械の「カッター」や「のこ歯」によって、身体を切りつけたり、接触によるこすれから大きな怪我を負う場合があります。
労働災害の中で、非常に多く発生する類型ではないですが、それでも「カッター」や「のこ歯」といった鋭利な刃物による事故類型ですので、重大な結果が発生することも少なくないです。
厚生労働省が発表している平成30年の統計では、休業4日以上の死傷災害のうち、約6%が切れ・こすれによるものとされています。
切れ・こすれによる事故の例
・クッキーカッター機のベルト部分の掃除中にカッターの刃で右手中指を切断
・角材を加工中、携帯用丸のこ盤が反発して作業者に当たり死亡
・切り株の除去作業中、携帯用丸のこ盤で切創を負い死亡
・同僚の操作する刈払機(かりはらいき)に接触して死亡
・伐倒木の枝払い作業中にチェーンソーで自分の大腿部を切りつけて負傷
切れ・こすれによる事故については、通常、労働災害に該当しますので、労災保険から一定の給付を受けられます。
また、労災保険からの給付以外に、事業主(会社)から損害賠償金を受領できる場合もあります。
労災保険給付について
労働災害によって死亡や負傷といった結果が発生した場合には、労災保険から一定の給付を受けることができます。
医療機関の治療費等については、療養(補償)給付の支給を受けることができます。
休業による減収については、休業(補償)給付の支給を受けることができます。
後遺障害が残ってしまった場合には、障害(補償)給付の支給を受けることができます。
これら以外にも遺族(補償)給付、介護(補償)給付、葬祭料(葬祭給付)等の給付が準備されています。
労災保険の請求は被災者の権利でありますので、漏れなく請求する必要があります。
事業主(会社)に対する損害賠償請求について
重篤な後遺障害を負ったり、命を失うこともある「切れ・こすれによる事故」では、労災保険から相当額の給付(数百万円から数千万円)が支給されることがあります。
しかし、労災保険給付以外に、事業主(会社)に対して、損害賠償請求できることも多いです。
直接の事業主(会社)に資力がない場合には、元請けに対して損害賠償請求できることもあります。
被災者が事業主(会社)に対して、損害賠償請求を行う主な根拠は以下のとおりです。
1 民法上の不法行為責任(民法709条等)
2 労働契約法上の債務不履行責任(民法415条)
3 使用者会社の取締役の第三者に対する責任(会社法429条1項)
しかしながら、事業主(会社)や元請けに損害賠償請求できるということを知らずに、労災保険からの給付を受け取ったことで、補償を十分に受けたとして、事件を解決してしまっている被災者の方も少なくありません。
後遺障害が重大である場合には、事業主(会社)から、かなりの金額が支払われることになりますので、将来の生活のためにも確実に請求する必要があるといえます。
労災保険給付以外に事業主(会社)への損害賠償請求が認められた例
金属のプレス等を主たる業とする会社の工場で、プレス作業に従事していた際、プレス機により左手掌部切断の傷害を負った事案
労災保険において、後遺障害等級併合7級が認定されて、治療費以外に労災保険年金として約400万円が支払われていました。
しかしながら、それ以外に事業主に対して、合計で約550万円の損害賠償請求が認められました。
(東京地裁平成30年7月25日判決)
工場内でプレス機を使用して加工作業を行っていた際、プレス機のプレス部分に左手を挟み、左示指、左小指、左中指、左環指を切断する等の傷害を負った事案
労災保険において、休業補償給付、障害補償一時金等として、約870万円が支払われていました。
しかしながら、それ以外に事業主に対して、合計で約1650万円の損害賠償請求が認められました。
(東京地裁平成27年4月27日判決)
業務用リフトのワイヤーロープの点検作業中、ワイヤーロープを握って点検作業を行っていた際、左環指切断等の傷害を負った事案
労災保険において、後遺障害等級7級が認定されて、休業補償給付、障害補償給付等として、約530万円等が支払われていました。
しかしながら、それ以外に事業主に対して、合計で約2010万円の損害賠償請求が認められました。
(大阪地裁平成24年3月26日)
工場内においてロータリーバルブの清掃作業中、ロータリーバルブの金属製の羽根に軍手の先を引き込まれて、右手示指、中指、環指切断等の傷害を負った事案
労災保険において、後遺障害等級8級が認定されて、休業補償給付、障害補償給付等として、約800万円等が支払われていました。
しかしながら、それ以外に事業主に対して、合計で約890万円の損害賠償請求が認められました。
(東京地裁平成17年2月15日)