はさまれ・巻き込まれ事故

業務としての作業中に、被災者が機械に「はさまれてしまった」「巻き込まれてしまった」という事故が発生することがあります。

 

強力な機械的動力により動く機械や器具に、はさまれたり、巻き込まれたりすれば、被災者が負う怪我の程度は甚大であることが少なくありません。

手指、足指が切断されることも多いですし、手足そのものが切断されることも珍しくありません。頭部や胸部が挟まれたり、巻き込まれたりすれば、被災者の命まで奪われることもあります。

 

厚生労働省が発表している平成30年の統計では、労働災害による死亡事故のうち、約12%が、はまされ・巻き込まれ事故によるものとされています。

 

はさまれ・巻き込まれ事故の例

・トラック荷台の扉を開けていたときに、後退してきたフォークリフトとトラックの間にはさまれて死亡

・ロール機を清掃する際、回転中のローラーに手の指が巻き込まれて負傷

・旋盤にて鉄棒の切削作業中、回転中の鉄棒に手が巻き込まれて手首を切断

・加熱機械の調整作業を行っていたところ、電源を切っていなかったため、加熱機械にはさまれて負傷

・丸のこ盤を使用して作業中、ローラーに巻き込まれて死亡

 

業務中の「はさまれ・巻き込まれ事故」については、通常、労働災害に該当しますので、労災保険から一定の給付を受けられます。

また、労災保険からの給付以外に、事業主(会社)から損害賠償金を受領できる場合もあります。

 

労災保険給付について

労働災害によって死亡や負傷といった結果が発生した場合には、労災保険から一定の給付を受けることができます。

医療機関の治療費等については、療養(補償)給付の支給を受けることができます。

休業による減収については、休業(補償)給付の支給を受けることができます。

後遺障害が残ってしまった場合には、障害(補償)給付の支給を受けることができます。

これら以外にも遺族(補償)給付、介護(補償)給付、葬祭料(葬祭給付)等の給付が準備されています。

労災保険の請求は被災者の権利ですので、漏れなく請求する必要があります。

 

事業主(会社)に対する損害賠償請求について

重篤な後遺障害を負ったり、命を失うこともある「はさまれ・巻き込まれ事故」では、労災保険から相当額の給付(数百万円から数千万円)が支給されることがあります。

 

しかし、労災保険給付以外に、事業主(会社)に対して、損害賠償請求できることも多いです。

直接の事業主(会社)に資力がない場合には、元請けに対して損害賠償請求できることもあります。

 

被災者が事業主(会社)に対して、損害賠償請求を行う主な根拠は以下のとおりです。

1 民法上の不法行為責任(民法709条等)

2 労働契約法上の債務不履行責任(民法415条)

3 使用者会社の取締役の第三者に対する責任(会社法429条1項)

 

しかしながら、事業主(会社)や元請けに損害賠償請求できるということを知らずに、労災保険からの給付を受け取ったことで、補償を十分に受けたとして、事件を解決してしまっている被災者の方も少なくありません。

後遺障害が重大である場合には、事業主(会社)から、かなりの金額が支払われることになりますので、将来の生活のためにも確実に請求する必要があるといえます。

 

労災保険給付以外に事業主(会社)への損害賠償請求が認められた例

クリーニング工場で大型洗濯・乾燥機に巻き込まれて、被災者が亡くなった事案

労災保険から、遺族補償年金等が約780万円支払われていました。

しかしながら、それ以外に、事業主に対して、合計で約4500万円の損害賠償請求が認められました。

(東京地裁八王子支部平成15年12月10日判決)

 

作業中に左手を機械に挟まれて受傷した事案

労災保険において、左手3本の指の可動域制限と左手握力不足について、後遺障害等級14級が認定され、障害補償給付等として、約380万円が支払われていました。

しかしながら、それ以外に事業主に対して、合計で約290万円の損害賠償請求が認められました。

(静岡地裁平成19年1月24日判決)

 

工場における作業中に機械に右腕を巻き込まれて右前腕切断の傷害を負った事案

労災保険において、後遺障害等級5級が認定され、障害補償給付等として、約780万円が支払われていました。

しかしながら、それ以外に事業主に対して、合計で約2160万円の損害賠償請求が認められました。

(東京高裁平成13年3月29日判決)