頭部(脳)の後遺障害

1 高次脳機能障害

高次脳機能障害とは、外傷により頭部に衝撃が加わったことにより、脳の内部に損傷が生じて、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの症状を発症する病気です。

等級

障害の程度

1級の3

高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの

2級の2の2

高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの

3級の3

生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの

5級の1の2

高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの

7級の3

高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの

9級の7の2

通常の労務に服することができるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの

12級の12

通常の労務に服することができるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの

14級の9

通常の労務に服することができるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの

 

高次脳機能障害は、本人に病気の認識がないことが特徴の1つと言われています。

脳の内部の損傷が原因ですので、骨折などと異なり、一見すると全く普通に見えてしまうことから、見逃されやすいという問題があります。

各症状の具体例は、以下のとおりです。ご自身、又は交通事故に遭われたご家族に類似する症状が認められないか、チェックする必要があります。

記憶障害

ガスを消し忘れる、薬を飲んだことを忘れる、記憶が残らないため何でもメモを取るようになった、以前に購入したことを忘れて何度も同じものを買ってくる

注意障害 

気が散りやすい、赤信号に気付かずに横断歩道を渡る、何かを始めても途中で何をしていたのか分からなくなる

遂行機能障害 

行動を計画して実行できない、仕事の段取りが一切立てられなくなった、料理ができなくなった、部屋の整頓ができなくなった

社会的行動障害

突然怒り出し激しく怒鳴る、突然泣き出す、感情がコントロールできなくなり周囲の人とトラブルが頻発する、暴言・暴行を振るう、幼児のような言動がみられる、意欲が全くない

 

2 脳損傷による麻痺

脳の損傷によって、身体に麻痺が生ずることがあります。

麻痺の範囲(四肢麻痺、片麻痺及び単麻痺)、その程度(高度、中等度及び軽度)、介護の有無・程度によって、障害等級が認定されます。

四肢麻痺とは、両側の四肢の麻痺、片麻痺とは一側の上下肢の麻痺、対麻痺とは両上肢または両下肢の麻痺、単麻痺とは上肢または下肢の一肢のみの麻痺を意味します。

脳の損傷による麻痺については、通常、四肢麻痺、片麻痺または単麻痺が生じるとされ、対麻痺が生じることはないとされています。

等 級

障害の程度

1級の3

高度の四肢麻痺

中等度の四肢麻痺ないし高度の片麻痺で要常時介護状態の場合

2級の2の2

高度の片麻痺

中等度の四肢麻痺で要随時介護状態の場合

3級の3

中等度の四肢麻痺

5級の1の2

軽度の四肢麻痺、中等度の片麻痺、高度の単麻痺

7級の3

軽度の片麻痺、中等度の単麻痺

9級の7の2

軽度の単麻痺

12級の12

運動性、支持性、巧緻性、速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺

 

脳損傷による麻痺と、脊髄損傷による麻痺とでは、麻痺の範囲と程度が同じであっても、等級が異なるものがあるので注意が必要です。脊髄損傷による麻痺の方が重い場合がありますので、麻痺の原因を正確に特定する必要があります(例えば、中等度の四肢麻痺は、脳損傷によるものは3級ですが、脊髄損傷によるものは2級とされています。)。

 

麻痺の程度

内容

高度

麻痺が高度とは、障害のある上肢又は下肢の運動性・支持性がほとんど失われ、障害のある上肢又は下肢の基本動作(下肢においては歩行や立位、上肢においては物を持ち上げて移動させること)ができないものをいう。

(具体例)

①完全強直又はこれに近い状態にあるもの

②上肢においては、3大関節及び5つの手指のいずれの関節も自動運動によっては可動させることができないもの又はこれに近い状態にあるもの

③下肢においては、3大関節のいずれも自動運動によっては可動させることができないもの又はこれに近い状態にあるもの

④上肢においては、随意運動の顕著な障害により、障害を残した一上肢では物を持ち上げて移動させることができないもの

⑤下肢においては、随意運動の顕著な障害により一下肢の支持性及び随意的な運動性をほとんど失ったもの

中等度

麻痺が中等度とは、障害のある上肢又は下肢の運動性・支持性が相当程度失われ、障害のある上肢又は下肢の基本動作にかなりの制限があるものをいう。

(具体例)

①上肢においては、障害を残した一上肢では仕事に必要な軽量の物(概ね500グラム)を持ち上げることができないもの又は障害を残した一上肢では文字を書くことができないもの

②下肢においては、障害を残した一下肢を有するため杖若しくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの又は障害を残した両下肢を有するため杖若しくは硬性装具なしには歩行が困難であること

軽度

麻痺が軽度とは、障害のある上肢又は下肢の運動性・支持性が多少失われており、障害のある上肢又は下肢の基本動作を行う際の巧緻性及び速度が相当程度損なわれているものをいう。

(具体例)

①上肢においては、障害を残した一上肢では文字を書くことに困難を伴うもの

②下肢においては、日常生活は概ね独歩であるが、障害を残した一下肢を有するため不安定で転倒しやすく、速度も遅いもの又は障害を残した両下肢を有するため杖若しくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの

 

3 外傷性てんかん

てんかんとは、「反復するてんかん発作を主症状とする慢性の脳障害」であり、てんかん発作とは、「大脳のある部分の神経細胞が発作的に異常に過剰な活動を起こし、これがある程度広範な領域の神経細胞を巻き込んで、一斉に興奮状態に入った場合に生ずる運動感覚、自律神経系または精神などの機能の一過性の異常状態のこと」とされています。

 

外傷性てんかんは、発作の型、発作の頻度に着目して、認定基準が定められています。

服薬により、てんかん発作が抑制されていても、9級に認定されることがありますし、てんかんの発作が生じていなくとも、脳波上にてんかん棘波が認められる場合には、12級が認定されることに注意が必要です。

 

等 級

障害の程度

5級の1の2

1ヶ月に1回以上の発作があり、かつ、その発作が「意識障害の有無を問わず転倒する発作」又は「意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作」(以下「転倒する発作等」という。)であるもの

7級の3

転倒する発作等が数か月に1回以上あるもの又は転倒する発作等以外の発作が1ヶ月に1回以上あるもの

9級の7の2

数か月に1回以上の発作が転倒する発作等以外の発作であるもの又は服薬継続によりてんかん発作がほぼ完全に抑制されているもの

12級の12

発作の発現はないが、脳波上に明らかにてんかん性棘波を認めるもの

 

4 頭痛

頭痛については、頭痛の型の如何にかかわらず、労働又は日常生活上の支障の程度に応じて、障害等級が規定されています。

9級、12級、14級が規定されていますが、9級に関しては、脳や脊髄などの中枢神経の異常に基づくことが必要ですし、12級に関しても、自覚症状だけでなく、医学的な他覚的所見に基づくことが必要です。14級に関しても、事故態様、自覚症状、他覚的所見等から医学的に説明が可能であることが必要です。

日々の頭痛の程度(午前、午後、夜)、服薬の種類・量、日常生活への影響度等を詳細に記録しておくことで、頭痛の存在を証明することに役立ちます。

障害等級は定められていますが、頭痛単体で、等級認定を受けるのはハードルが高いのが現実です。

 

等 級

障害の程度

9級の7の2

通常の労務に服することはできるが激しい頭痛により、時には労働に従事することができなくなる場合があるため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの

12級の12

通常の労務に服することはできるが、時には労働に差し支える程度の強い頭痛が起こるもの

14級の9

通常の労務に服することはできるが、頭痛が頻回に発現しやすくなったもの

 

 

5 遷延性意識障害

遷延性意識障害とは、頭部外傷等により昏睡状態に陥り、開眼できるまでになったものの意思疎通が喪失した身体状態のことをいいます(植物状態といわれることもありますが、被害者は人であり「物」ではありませんので、当HPでは使用致しません)。

遷延性意識障害は、主として頭部外傷等により発症します。

日本脳神経外科学会では、以下の6項目が治療にもかかわらず、3ヶ月以上続いた場合を「遷延性意識障害」と定義しています。

 

ⅰ 自力移動が不可能である。

ⅱ 自力摂取が不可能である。

ⅲ 便・尿失禁がある。

ⅳ 声を出しても意味のある発語が全く不可能である。

ⅴ 簡単な命令にはかろうじて応じることもあるが、それ以上の意思疎通は不可能である。

ⅵ 眼球はかろうじて物を追うこともあるが認識できない。

 

通常、常時介護を要する後遺障害として、1級の3に認定されます。

 

被害者の方が遷延性意識障害の状態に陥った場合、ご本人はもちろんのこと、ご家族も精神的ダメージに加えて、多大な介護の身体的負担等、大変な苦労に直面せざるを得ません。

遷延性意識障害においては、全国的な家族会が存在しますので、早い段階で、将来の在宅介護等についてアドバイスを受けるのが望ましいです。

遷延性意識障害の状態からの回復事例については、「僕のうしろに道はできる(三五館)」や「がんばれ朋之!18歳(あけび書房)」が参考になります。

遷延性意識障害の状態に陥ったご本人の意識状態についても「僕のうしろに道はできる(三五館)」や「昏睡Days(書肆侃侃房)」に記述があり、外部の状況を明確に認識されている場合もありますので、ご家族の方はご一読されることをお勧め致します。