労災に遭ったら注意すること

 

1.労災保険の請求書の「災害の原因及び発生状況」の記載

労災保険の請求に関しては、事業主(会社)ないし事業主(会社)が依頼する社会保険労務士が代行することが少なくありません。

 

しかしながら、労災保険の請求書の「災害の原因及び発生状況」の記載については、注意をする必要があります。

 

事業主(会社)においては、後に損害賠償請求されることを恐れて、事業主(会社)の側に有利な事実を記載することがあります。

 

事業主(会社)が依頼する社会保険労務士においても、事業主(会社)の意向を忖度して、事業主(会社)に不利にならないような記載をすることも考えられます。

 

そのため、労災保険の請求書を労働基準監督署に提出する前には、必ず、「災害の原因及び発生状況」の記載内容が事実と異なっていないか、確認する必要があります。

 

2.後遺障害の診断書の記載

労災保険の後遺障害については、障害(補償)給付の申請に添付する診断書に基づき認定がなされます。

 

労災保険における後遺障害認定に際しては、通常、労働基準監督署の担当者や労災の医師による面接が実施されますが、それでも、やはり、最初の診断書の記載が重要であることに変わりはありません。

 

しかし、医師は治療の専門家ではあるものの、後遺障害の専門家ではありません。

 

そのため、診断書の記載が不十分なことも少なくありません。

 

あるいは、後遺障害の認定に必要な検査が行われていないということもあり得ます。

 

そこで、障害(補償)給付の申請をするに当たっては、添付の診断書の記載内容を吟味、精査する必要があります。

 

被災者に残存する症状から、認定される可能性のある後遺障害等級の見通しを立てて、当該等級の認定基準と照らし合わせて、必要なことが漏れなく記載されているか、確認する必要があります。

 

3.一人で起こした事故でも、事業主(会社)に損害賠償請求できる可能性があること

労働災害に遭ってしまった被災者の方は、「自分1人で作業中に、単独で起こしてしまった事故で怪我をした場合」、事業主(会社)に請求できるものはない、と考えてしまうことが少なくないです。

 

実際、事業主(会社)からも、単独で起こした自損事故であるため、事業主(会社)には損害賠償責任がないと説明を受けることが少なくないです。

 

しかし、事業主(会社)は、被災者との労働契約に付随して、被災者の生命・健康を危険から保護するように配慮する義務(安全配慮義務)を負っています。

 

そのため、事業主(会社)が、その安全配慮義務を怠ったことに起因して、労働災害が発生した場合には、1人で起こしてしまった事故による負傷であっても、事業主(会社)に損害賠償請求できるということになります。

 

例えば、工場のタンクの清掃作業中に、被災者が、タンク内に送気マスク等の保護具を装着せずに立ち入り、有機溶剤中毒で亡くなられた事案について、事業主には、「送気マスク等を装着せずにタンク内に立ち入ることを禁ずる旨の注意・指導をしていなかったこと」等として、安全配慮義務違反が認められ、損害賠償責任が認められることがあります。

 

あるいは、被災者が機械の修理作業を行っていた際、回転中の機械に接触して負傷した事案について、機械の修理作業を行う際には、機械の回転を止めて安全確認をするように指導することをしていなかった点に、安全配慮義務違反が認められ、損害賠償請求が認められることがあります。

 

したがって、自分1人で作業中の事故であっても、労災保険からの給付以外に、事業主(会社)に損害賠償請求できることも少なくないですので、注意が必要です。

 

4.事業主(会社)の過失の基礎となる事実の整理

労働災害に遭って負傷してしまった場合、最初に請求するのは、労災保険であることが多いです。

 

そして、労災保険で後遺障害の認定を受けて、その後、事業主(会社)に対して、損害賠償請求するか否か、検討される場合が多いです。

 

しかし、労災保険で後遺障害の認定を受けるまでに、通常は、労災事故から1年程度は経過していることが多いです。

 

場合によっては、もっと時間が経過してしまっていることも少なくありません。

 

そうしますと、被災者の方自身も、事故の詳細な状況を忘れてきてしまっていることがあります。

 

事故の現場の写真を撮ろうとしても、労災事故が起きたことから、事故時と大きく改修されてしまっていることも少なくありません。

 

同僚等の関係者に話を聞こうとしても、すでに退職してしまっていて、どこに居るか分からないことも多いです。

 

そうなってしまうと、事業主(会社)に対して、損害賠償請求できる余地があるのか、判断が付かないということになります。

 

また、本来、損害賠償請求が認められる事案においても、証明ができずに断念せざるを得ないということが起こりえます。

 

そこで、事業主(会社)に対して、損害賠償請求する可能性があるのであれば、事故当時の状況について、できるだけ細かくメモに残しておくことが必要となります。

 

可能であれば、現場の状況は写真を撮っておいた方が望ましいです。

 

もし、ご自身は入院中等で写真が撮れないということであれば、同僚等にお願いすることも考えられます。

 

そのようにして、できるだけ早い段階で、事故時の状況を証明できるようにしておくことが非常に重要です。

 

労災保険の認定時に労基署で調査した資料について、開示を受けることで、一定の事実は明らかになりますが、それでも、被災者の側で準備できることはしておいた方が賢明です。