弁護士に相談するタイミング
労働災害に遭って負傷してしまった場合、一体どのタイミングで弁護士に相談するのが良いのか、悩まれることも少なくないかと存じます。
結論としては、できるだけ早いタイミングで相談された方が良いということになります。
実際、相談にいらした方からは、「もっと早く相談に来ていれば良かった」という声を耳にすることも少なくありません。
では、なぜ早いタイミングで相談した方が良いのでしょうか。
労災保険に関しては、事業主(会社)ないし事業主(会社)の依頼している社会保険労務士が申請の手続を代行してくれることが少なくありません。
そうすると、一見、「早い段階で弁護士に相談する必要はないのではないか」という気もしてしまいます。
しかし、労災保険の申請書には、「災害の原因及び発生状況」を記載する欄があります。
事業主(会社)によっては、後の損害賠償請求を危惧して、事業主(会社)側に都合の良い記載をしてしまうことが考えられます。
社会保険労務士が代行する場合であっても、あくまで事業主(会社)に依頼されている立場ですので、事業主(会社)の意向を忖度することがないとはいえません。
「災害の原因及び発生状況」の記載は、裁判になれば当然出てきますし、裁判官の判断に大きな影響を与える恐れがあります。
そのため、初期の段階から、注意を払う必要があるのです。
また、労働災害に遭ってしまった場合に請求できる金員は、労災保険だけでない場合が多いです。
事業主(会社)に対して、損害賠償請求できる場合も少なくありません。
その場合の事業主(会社)との交渉については、弁護士が就くか就かないかで、金額に大きな影響を与えることが多いです。
事業主に対する損害賠償請求については、訴訟に移行する恐れもあります。
訴訟に移行した場合、基本的には被災者の側で、事業主(会社)の側の過失を立証していく必要があります。
しかし、事故から時間が経過していれば、事業主(会社)の過失を裏付ける証拠を集めることが困難になることも少なくありません。
そのため、早期に弁護士に相談して、事実を整理して、集められる証拠は集めておいた方が賢明です。
労災保険の認定時に労基署で調査した資料について、開示を受けることで、一定の事実は明らかになりますが、それでも、被災者の側で、準備できることはしておいた方が望ましいです。
以上のとおり、弁護士に相談するタイミングはできるだけ早い方が良いということになります。
ただ、少なくとも、以下の段階では、ご相談された方が良い結果に繋がりやすいといえます。
1 労災申請に事業主(会社)の協力が得られない場合
労災申請は、被災者ないしそのご遺族に認められた権利です。
したがって、事業主(会社)の許可や承認は不要です。
しかしながら、申請書には、事業主(会社)の証明印の欄があるため、事実上、事業主(会社)に協力を求める必要が出てきます。
もっとも、事業主(会社)において、労災申請に消極的である場合や、「災害の原因及び発生状況」の記載について事実と異なるような記載をしてくる場合があります。
そのような場合には、弁護士にご相談頂く必要があります。
2 労災の後遺障害の認定が不十分な場合
労災の後遺障害認定は、交通事故の自賠責保険による認定よりも、認定が緩やかであると一般的にはいわれています。
そのため、被災者の側から見て、残存した症状に比べて不十分であることは、自動車事故の場合よりは少ないように見受けられます。
しかしながら、労災保険の認定においても、残存した障害に見合った後遺障害等級が認定されないことは当然生じ得ます。
そのような場合は、審査請求、再審査請求等の再申請を行い、等級の見直しをしてもらう必要があります。
審査請求、再審査請求等の手段は、申立期限が厳格に定められており、また、後遺障害認定基準に沿った主張立証をしなければ、当初の認定が覆ることはありません。
そのため、専門性が非常に高いといえますので、弁護士にご相談頂く必要があります。
3 事業主(会社)に損害賠償請求をする場合
事業主(会社)に損害賠償請求する場合、例えば、慰謝料は一体どの程度の金額になるのか、あるいは、労災保険給付との調整はどのようにすれば良いのか等、初めて労働災害に遭った被災者の方を悩ませる問題が多数発生します。
また、事業主(会社)の側から、被災者の落ち度(過失)を指摘されて、請求自体、認められない旨の説明を受けることもあります。
被災者の側に過失があっても、事業主(会社)が損害賠償責任を負うことは少なくありません。
事業主(会社)から過失を主張された場合は、過失の内容・程度を詳細に分析する必要があります。
しかしながら、労働災害における過失は、交通事故の過失と異なり、類型化や整理が進んでおらず、非常に専門性の高い問題です。
以上のとおり、事業主(会社)に対して損害賠償請求する場合には、専門性の高い問題が多数発生しますので、弁護士にご相談頂く必要があります。