墜落・転落による事故

「高所で作業中に足場板とともに墜落する」「家屋の屋根の上で作業中に滑って転落する」といった墜落、転落事故が発生することがあります。

墜落・転落事故は労働災害の中で、多く発生している事故類型であり、死亡や重傷といった重大な結果が発生しやすい事故類型です。

厚生労働省が発表している平成30年の統計では、労働災害による死亡事故のうち、約28%が墜落・転落事故によるものとされています。

 

墜落・転落による事故の例

・建物の窓の外側を清掃中、乗っていた脚立が庇(ひさし)から転落して死亡

・マンションの修繕工事現場にて足場の解体作業中に、足場から墜落して負傷

・暗い工場内を歩行中にピット(古いタンクを除去した坑)に墜落して負傷

・鉄骨の塗装作業中に足を踏み外して墜落して負傷

・林道の法面のコンクリート吹き付け作業中、墜落して死亡

 

業務中の墜落・転落事故については、通常、労働災害に該当しますので、労災保険から一定の給付を受けられます。

また、労災保険からの給付以外に、事業主(会社)から損害賠償金を受領できる場合もあります。

 

労災保険給付について

労働災害によって死亡や負傷といった結果が発生した場合には、労災保険から一定の給付を受けることができます。

医療機関の治療費等については、療養(補償)給付の支給を受けることができます。

休業による減収については、休業(補償)給付の支給を受けることができます。

後遺障害が残ってしまった場合には、障害(補償)給付の支給を受けることができます。

これら以外にも遺族(補償)給付、介護(補償)給付、葬祭料(葬祭給付)等の給付が準備されています。

労災保険の請求は被災者の権利ですので、漏れなく請求する必要があります。

 

事業主(会社)に対する損害賠償請求について

重篤な後遺障害を負ったり、命を失うこともある墜落・転落事故では、労災保険から相当額の給付(数百万円から数千万円)が支給されることがあります。

 

しかし、労災保険給付以外に、事業主(会社)に対して、損害賠償請求できることも多いです。

直接の事業主(会社)に資力がない場合には、元請けに対して損害賠償請求できることもあります。

 

被災者が事業主(会社)に対して、損害賠償請求を行う主な根拠は以下のとおりです。

1 民法上の不法行為責任(民法709条等)

2 労働契約法上の債務不履行責任(民法415条)

3 使用者会社の取締役の第三者に対する責任(会社法429条1項)

 

しかしながら、事業主(会社)や元請けに損害賠償請求できるということを知らずに、労災保険からの給付を受け取ったことで、補償を十分に受けたとして、事件を解決してしまっている被災者の方も少なくありません。

後遺障害が重大である場合には、事業主(会社)から、かなりの金額が支払われることになりますので、将来の生活のためにも確実に請求する必要があるといえます。

 

労災保険給付以外に事業主(会社)への損害賠償請求が認められた例

戸建住宅の塗装工事に従事していた際、2階から墜落して負傷した事案

労災保険において、右肩の可動域制限により後遺障害等級10級が認定されて、障害補償給付等として、約520万円が支払われていました。

しかしながら、それ以外に事業主に対して、合計で約1080万円の損害賠償請求が認められました。

(大阪地裁平成31年2月6日)

 

高架橋建設現場の型枠支保工解体作業中に転落して、左上腕、前腕、大腿骨、骨盤骨折等を負った事案

労災保険において、左手関節痛、腰痛等により後遺障害等級併合12級が認定されて、障害補償給付等として、約250万円が支払われていました。

しかしながら、それ以外に事業主に対して、合計で約590万円の損害賠償請求が認められました。

(高松地裁平成20年9月22日判決)

 

家屋解体工事中に転落事故により、脊髄損傷等の傷害を負った事案

労災保険において、両下肢麻痺、自排尿不可により後遺障害等級1級が認定されて、障害補償給付等として、約1840万円が支払われていました。

しかしながら、それ以外に事業主に対して、合計で約8320万円の損害賠償請求が認められました。

(東京地裁平成17年11月30日判決)